あるいは巌

野村喜和夫



いつの臨終だろう、眠るように眼を閉じ、まぶたの裏、
まだうごめく筋肉がみえ、その不穏、かきわけてゆくと、
いるいる、時ふかく蔵われた、溶けた若い娘たち、
そのどろりとした滴がみえ、そのへりから、とろとろ、
泡のように噴きこぼれてくる、惑乱の私のかけら、
ささくれ立ち、問う穂のかたち、なので、答えるように、
また眼をひらき、するといちめんの巌、いちめんの巌、
ほかに何もみえず、あありがとう、we are after dream、
それでもう一度、今度こそ、眠るように眼を閉じ、
まぶたの裏、いつの臨終だろう、いつの臨終だろう、

(初出--「文藝春秋」2005年7月号)