(びーんだったか)

野村喜和夫



びーんだったか、
きーんだったか、
ぼくの外が不在だったころの
ただひとつの音。

いやちがう
ちがうのかもしれない、
音ではなく亀裂
亀裂ではなくその一途な潜勢、
内奥なんてそんなもの
と思う日もあり、
半身であてどなくひとうねりした。

その足で
ぼくは出掛けた、
陽を浴びて
やや未開のあわあわ道では、
まれに
縄のように女があり、
またごうとすると
愛された、
仕方なく平行して
青いひもとしてなおいくばくか伸びてゆくと、
ひもは殖えて
つきたち、
ねじれ、
斜上した。

そのときふたたび
びーんだったか、
きーんだったか、
外が
寄り添ってきた。

粒子状ざらざら
とぼくが書くと、
汗をかく、壮麗
と外は読むのだった。

耳をふさぐと
唖の微風、
ぼくだって
崩壊あとまだわずかさき、
外が
気づかわしげに眼を見開いている。



(詩集『川萎え』に所収)