老年の日

 

 

写真を撮りましょう、

めずらしく私はカメラを持ち、

 

あなたの車椅子のまえに立った、

年老いたあなたには、

 

もう死しか待っていないようにみえる、

でもいまがいちばん幸せ、あなたはそう言い、

 

法悦にも似た表情を、

その皺の刻まれた顔に浮かべる、

 

たしかに子供や孫にもめぐまれ、夫も優しい、

だがそれでも、法悦までには、

 

まだ大きな距離がある、

と私は思いながら、

 

写真を撮りましょう、

そうしてファインダーを覗くと、

 

あなたの背景に、

ちょうどあなたの白髪と競うように、

 

名も知らない小さな白い花が咲き乱れている、

そのあたりでは、

 

もう命名の行為も及ばないのだろう、

私はシャッターを押した、

 

老年とは、

ひとつの神秘である、

 

(未刊詩集『春の戴冠/人生の夜』より)